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続、楕円球の青春

続、楕円球の青春 Vol.02

投稿日時:2015/09/12(土) 22:30

「とみたー」ドンドンドン「とみたーー」ドンドンドンドン!

土曜の早朝、クラブ(踊る方)で朝まで大騒ぎして、千葉県柏市にある独身寮に戻った後、一時間も経たないうちにドアを叩く音と、先輩のけたたましい怒号で目を覚まさせられる。鍵などかけていなかったので、その直後には先輩が部屋にズカズカと入ってきて、散らかっている部屋の中から私のジャージやソックスなど適当に抱えて、「行くでー」と。

朦朧としながら、乗り込んだ車には別の先輩が運転席に座っており、笑いながら「とみた、またクラブか?」と。同じく後部座席には、さっきまで一緒にガールハントをしていた同期が同じように寝ぼけまなこで座っている。ほどなくして、車が出発するとまた深い眠りに落ちていく。そして、気づくとグランドに到着している。

とにかく眠かった。不十分な睡眠時間のまま、毎週毎週グランドに強制連行させられる。グランドに到着すれば、さらに強烈な先輩らが待っており、一息つく間もなく練習が始まる。また、この練習が苦痛でならなかった。走るのもしんどければ、体をぶつけ合うことなど日常生活には無いのだ。私が素人であることを知っている同期も、何故か分からないが体を固めて全力でぶつかってくる。カエルのようにひっくり返りながら「容赦するとかないのか!」などと心の中で思いながらも、練習中は自分の順番が回らないように、なんとなく存在感を消して塊の隅にいるようにした。

また、当時の会社のラグビー部主将が、昔ながらの体育会出身者で、ことあるたびに蹴っ飛ばされていた。敬語を使うことができない私が、タメ口を叩くたびに蹴っ飛ばされたし、練習中「痛い、痛い」と言う私にも、「練習で、痛いとか言わねーんだよ、普通は!」と蹴っ飛ばされた。

このように辛い「苦行」でしかない週末の午前中であったが、それでも継続出来たのには理由があった。

それは、辛い練習を終えると、毎回必ずメシを食わせて貰えるのだ。それは、焼肉だったり、新鮮な魚だったり、炭焼きのハンバーグだったりと。お金を使う必要が全く無い。往復の交通費もメシ代も、一日お金を使わずに済むのだ。給料の200%を遊びにつぎこんでいた私には、非常にありがたい話であった。そして、その場には必ず美女が居るのである。誰の彼女かどうかも分からないが、毎回違う美女が複数名、この苦行のあとのメシに同席している。そして何故か、その目は優しく微笑んでくる。なんなんだ、これは!こんな世界があったのか!と。

ラグビー、練習は辛いし痛いし、汚いし臭いけど、この二時間耐えれば、なんだかキモチがいいもんだ~。
というのが、23歳の私に刻まれた感情である。調教に近い。まさにアメとムチ。

ラグビーを始めた「熱いきっかけ」とは裏腹に、続けた理由は、この「軟弱な邪心」であった。
こうして、私はラグビー(の場)にのめりこんでいく。ただ、競技の面白さはまだ知る由もない。

つづく

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おもろいな

Posted by おにょ at 2015/09/13 14:11:52.002563+09 PASS:
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